この記事の結論
<p>AI導入によるコスト削減効果は、出典が確認できる事例で見る必要があります。経済産業省・情報処理推進機構(IPA)が選定する「DXセレクション2026」では、生成AIによる報告書作成支援で作成時間を90%削減した訪問看護ステーション(プーラビダ株式会社)や、AI画像識別アプリの開発で営業1人あたりの月間平均時間(移動込み)を約9時間削減した建設会社(コマツ株式会社)など、企業名と数値が公表されている事例が確認できます(出典:経済産業省ウェブサイト、2026年9月16日確認)。本記事では、こうした一次情報の事例と、費用相場・ROI試算の考え方を、出典の無い断定を排除して整理します。</p>
AI導入のコスト削減効果を見るときに注意すべきこと
「AI導入でコスト削減」という切り口の記事には、企業名や出典URLが示されないまま「年間〇〇万円削減」という数字だけが並ぶものが少なくありません。出典が無い削減額は、実際の効果を反映しているとは限らず、鵜呑みにすると社内稟議や投資判断を誤らせるおそれがあります。
本記事で紹介する数値は、すべて経済産業省・情報処理推進機構(IPA)が運営する「DXセレクション」の選定企業レポート(企業自身が提出した財務指標・業務指標を経済産業省が確認・公表しているもの)に基づいています。出典URLと確認日を各項目に付記していますので、必要に応じて一次情報を直接ご確認ください。
AI導入によるコスト削減は、大きく分けると「作業時間の削減(人件費・残業代に直結)」と「目視・判断業務の代替(検査・確認業務の効率化)」の2つのパターンで語られることが多く、以下で紹介する事例もこのいずれか、または両方に該当します。
「AI導入 コスト削減 事例」の一次情報はどこにあるか
実在企業の名前・数値付きでAI活用の成果を確認できる公的な情報源としては、主に次の3種類があります。
| 情報源 | 特徴 | 公開元 |
|---|---|---|
| DXセレクション | 中堅・中小企業のDX優良事例を経済産業省とIPAが選定。応募企業が財務指標を含む様式を提出し、最終選考はプレゼンテーション審査を経て選定企業レポートとして公表される | 経済産業省・IPA |
| IT導入補助金・ものづくり補助金・省力化投資補助金の採択事例 | 補助金の採択を受けた事業者の取組が公式サイトで紹介されることがある。ただし全採択者の事例が公開されているわけではない | 各事務局(中小企業庁所管) |
| 上場企業のIR資料・プレスリリース | AI活用による業務効率化の効果を決算説明資料や適時開示で言及する企業がある。数値の算出根拠は開示資料ごとに異なる | 各企業 |
本記事では、このうちDXセレクションの選定企業レポートに掲載されている事例を、出典ページ番号とあわせて紹介します(経済産業省「DXセレクション」概要ページ、2026年9月16日確認)。
AI活用でコスト・工数削減の成果を公表している企業の例
以下5社は、いずれも「DXセレクション2026」(経済産業省・IPA選定)の選定企業レポートに、生成AIまたはAIを用いたアプリを業務効率化の中心手段として掲載している事例です。数値はレポート記載の表現をそのまま使用しています(出典:経済産業省・IPA「DXセレクション2026」選定企業レポート(2026年6月発行)、2026年9月16日確認)。
| 企業名(業種・所在地) | AIの使いどころ | 主な効果(レポート記載) | 出典ページ |
|---|---|---|---|
| プーラビダ株式会社(医療・福祉業/福岡県北九州市) | 生成AIを活用した内製プラットフォーム「ほぽたくん」による報告書作成支援 | 報告書作成90%削減、報告書郵送手配97%削減、離職率83.3%から7.7%に改善 | p.4 |
| コマツ株式会社(建設・内装業/大阪府東大阪市) | 壁紙AI識別アプリ「かべぴた」(同志社大学との産学連携で開発、識別精度90%以上) | 営業職1名あたり月間平均時間(移動込み)約9時間削減、移動距離138km削減 | p.10 |
| 株式会社エヌエスケーケー(小売業/兵庫県神戸市) | 全社員が使える生成AI活用環境の整備、月次で活用成果を共有する社内勉強会 | 請求書処理業務275分/月削減、営業提案書作成・引継ぎ業務300分/月削減 | p.12 |
| 株式会社川六(宿泊業、飲食サービス業/香川県高松市) | 全従業員によるRAG(検索拡張生成)の開発、経理業務の自動化 | 1人当たり月平均残業時間が6時間49分から3時間54分に短縮、離職率13.9%から6.5%に改善 | p.13 |
| 株式会社ヤマナミ麺芸社(飲食サービス業/大分県大分市) | 店舗運営・製造データを一元化し、生成AIが課題抽出から改善提案までを実施 | 仮説検証数が年6,941件から10,353件に増加、製造工場の可動率が47.0%から63.0%に改善 | p.14 |
いずれも「AI導入だけ」で達成した数値ではなく、経営体制の見直しや業務フローの標準化とあわせたDX全体の取組の中で得られた成果である点に注意してください。レポートには他にも、株式会社ネクサスエージェント(不動産業)がAI活用による業務効率化で全社の削減業務時間を年間約3,000時間としているなど、AIを軸にした事例が掲載されています。全11社の詳細は経済産業省の公表資料で確認できます。
事例:生成AIによる報告書作成支援(訪問看護・プーラビダ株式会社)
福岡県北九州市の訪問看護ステーション運営会社(従業員26名)は、高い離職率(83.3%)の改善を目的にDXを本格化させました。看護師にとって最大の負担であった報告書作成を、生成AIを活用した内製プラットフォーム「ほぽたくん」が支援する体制を構築しています。
| 指標 | 取組前 | 取組後 |
|---|---|---|
| 報告書の作成時間 | 1時間 | 5分(90%削減) |
| 報告書の郵送手配 | 2時間 | 3分(97%削減) |
| 離職率 | 83.3% | 7.7% |
レポートでは、この業務効率化と離職率低下によるコスト削減の結果、利益率10%超の黒字化を達成したとされています。「DXセレクション2026」でグランプリを受賞しました。
事例:AI画像識別アプリによる目視作業の代替(建設・内装業・コマツ株式会社)
大阪府東大阪市の建設・内装業(従業員12名)は、大学との産学連携でAI画像識別アプリ「かべぴた」を開発しました。壁紙の識別には従来1商品あたり平均1~3時間を要し、現地への目視確認の移動時間・移動コストも課題でした。同志社大学との共同開発で実現した識別精度は90%以上です。
- 営業職1名あたりの月間平均時間(移動込み):約9時間削減
- 移動距離:138km削減(CO2排出量の削減にも寄与)
- 年間休日数:2020年の100日・第1,3,5土曜日休みから、2025年は127日・土日祝休みの完全週休2日制に改善
「かべぴた」は自社利用にとどまらず、レポート時点で会員数37,000人以上が利用するツールに成長しています。
事例:全社的な生成AI活用による定型業務の削減(小売業・株式会社エヌエスケーケー)
兵庫県神戸市の携帯電話販売代理店(従業員61名)は、社長直轄のDX推進プロジェクトチームを設置し、全社員が生成AIを活用できる環境を整備しました。月に1回、全部署が生成AIを活用した改善成果を報告する社内勉強会(DXスクール)を運営しています。
- 請求書処理業務:275分/月削減
- 営業提案書作成・引継ぎ業務:300分/月削減
いずれも定型的な書類作成・確認業務であり、AIチャットや生成AIによる下書き作成が効きやすい業務領域であることがわかります。
事例:全従業員によるRAG開発(宿泊業、飲食サービス業・株式会社川六)
香川県高松市の宿泊特化型ホテル(従業員68名)は、毎週全店舗でRAG(検索拡張生成)の活用検討会議を開催し、60代の社員やパートを含む全従業員がRAGを開発する体制を作りました。ベテラン従業員の経験知をAIで形式知化することで、実務負担の軽減を図っています。
| 指標 | 2023年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 1人当たり月平均残業時間 | 6時間49分 | 3時間54分 |
| 離職率 | 13.9% | 6.5% |
レポートでは、この間にRevPAR(客室単価×稼働率)が25.1%増、人時生産性(粗利額を総労働時間で割った指標)が44.0%増となったことも公表されています。同社は経理業務の自動化や生成AI活用のノウハウを「川六モデル」としてパッケージ化し、M&Aで取得した経営不振の地方ホテルに導入、3か月で黒字化させたとしています。
事例:生成AIによる改善提案の自動化(飲食サービス業・株式会社ヤマナミ麺芸社)
大分県大分市の飲食店経営・食品製造会社(従業員399名)は、顧客の声・店舗運営データ・製造データをGoogle Workspace上に一元化し、生成AIが課題抽出から改善提案までを行う仕組みを構築しました。
- 仮説検証数(改善数):2023年度6,941件から2024年度10,353件に増加
- 製造工場の可動率(稼働時間のうち実際に機械が動いていた時間の割合):47.0%から63.0%に改善
- 人時生産性(粗利額を総労働時間で割った指標):2019年度3,678円から2024年度4,814円に向上
この取組は「Teachme Biz Award2025」(株式会社スタディスト主催)で最優秀賞を受賞しています。